第5話 魚醤油(うおしょうゆ)のお話し
魚醤油(うおしょうゆ)のお話し
皆さんはベトナムの「ニョク・マム」やタイの「ナム・プラー」そして秋田の「ショッツル」など、醤油と同じような液体調味料をご存知ですね。これらが「魚醤油(うおしょうゆ)」です。今回はこの魚醤油のお話をします。
「魚醤(ぎょしょう)」ともいいますが、皆さんはイカの塩辛をご存知ですね?こういった、液体ではなく、固状、かゆ状やペースト状の「塩辛」という食品も「魚醤」です。「魚醤油(うおしょうゆ)」は魚醤の中でも調味料用途のみに使われる「液体状の魚醤」をいいます。塩辛については現在でもうま味の文化圏をなす東アジア、東南アジアで広く使われており、魚醤油のオリジンでもありますので共に触れたいと思います。
「魚醤油」は魚介類から作る「醤油様調味料」です。発酵食品に入ります。
「醤油」は中国、日本など東アジア一帯で食生活に根を下ろして日常使われておりますし、東南アジア一帯でも魚醤油ほどではないですが調理に使われています。前回までにお話ししましたように、醤油は穀物のタンパク質を微生物の酵素により分解して作った、「アミノ酸のうま味を主体にした含塩の液体調味料」です。多くは大豆を原料としますが、他の豆類や別の穀物を使う種類もあります。
一方、「魚醤油」は現在、東南アジア一帯、特にベトナム,タイなどの大陸部で人々の日常生活に根を下ろしており、それぞれの地域の調理や食卓で「醤油」とほぼ同じ目的に使われております。東アジアでも限られた地域ですが生き残っております。日本では秋田のショッツルや能登のイシリの製造が続いています。穀類ではなく魚介類から作られるものですが、醤油と同じく「アミノ酸のうま味を持つ含塩の液体調味料」です。「醤油様調味料」と云うことが出来ます。日本では最近はナン・プラーの輸入が増加してきており、スーパーで売られ、各種加工食品の調味料としても使われ、使用が増加してきております。また、国内各地で魚介の付加価値増加を目的として、新しく工夫した魚醤油を作り販売を始める動きがあります。
製法は魚介類を食塩で腐敗を抑えながら、液体状になるまで長期に熟成して、魚介の肉のタンパク質をほぼ完全にアミノ酸に分解して作ります。醤油は微生物の酵素により穀物を分解して出来ますが、魚醤油は原料の魚介類の内臓の酵素により自分の体を分解(自己消化)して出来ます。この両者とも発酵食品と呼んでいます。後者では微生物は関与しません。原料自体の持つ酵素、つまり動物の酵素の反応プロセスなのですがやはり「発酵プロセス」とみなします。発酵と言う概念を最大限に広げた使い方だと思います。
関連する「塩辛」は自己消化による分解程度が魚醤油より少ない段階で製品にしたもので、原理は全く同じで同様にアミノ酸のうま味を持っています。しかし、原料の魚介の身も一部液化しながらも十分に残っており、全量を食用に供します。タンパク質に富んだおかず用とか酒肴用嗜好品ですが、調味用としても使われるようです。
魚醤油の成分を見ますと、ポイントのグルタミン酸を多く含み(約1%)、醤油にほぼ匹敵する含量ですので、うま味調味料として優れていることが頷けます。また、魚醤油は東南アジアでは「塩味調味料」としても使われており、醤油(17%)よりも食塩分を多く(26%)含んでおります。また、コハク酸を醤油より多く含みコク味に寄与していると考えられます。一方、魚醤油はpHが中性(6.0)に近いので酸味料としての機能は弱酸性の醤油((4.8)に対し劣りますし、醤油には含まれる糖分、アルコールがなく、醤油よりも比較的単純な味のうま味・塩味の調味料と言えそうです。
微生物は本当に働かない? 魚醤油作りに麹を添加するところもありますが。
先ほど、魚醤油作りには微生物は関与しないと述べましたが、微生物は熟成期間中にかなり増殖しておりますので、ある種の「微生物による発酵」は起こっています。正確にいいますと、「現在の魚醤油の作り方では、『うま味を生ずるアミノ酸への分解』には微生物の寄与度は小さい」という意味です。これは抗生物質の添加実験で確かめられました。微生物の詳しい働きはまだよくわかっておりませんが、それぞれの魚醤油の香味付け、あるいは匂い生成には関与しています。私どもは魚醤油の強烈な匂いを不快に感ずることが多いのですが、製造中におこる魚油等が空気酸化されたり微生物の作用により臭気成分を生じたりして匂いが発生することが原因と言われています。従って、後で述べる工程の短い一番搾りの魚醤油は匂いはあまりしません。
上述の微生物の関与は小さいということは今日の魚醤油についてのお話ですが、歴史をたどると微生物の働きについて、もう少し考察が必要です。第3話で述べましたが、中国の文献で3千年前の昔からあったという「肉醤(ししびしお)」はうま味をもった保存食品ですが、原料の動物や魚介の肉に食塩と「穀物の麹」と酒を混ぜて甕に入れて熟成させると記されています。当然肉のタンパク質のアミノ酸への分解に「穀物の麹」つまり微生物を働かせています。なぜ、自己消化酵素を持つ動物性の肉に微生物添加が必要なのでしょうか?それは、 獣肉や魚の自己消化酵素が弱い筋肉部分を原料にしたり、洗浄、乾燥、日干しなど手を加えた後にこれら原料を用いる場合は、微生物の分解酵素の助けが必要であったと思われます。一方、新鮮な小魚、イカ、えびなど丸ごと原料にする場合はそれらの内臓には強力な自己分解力のある酵素群を持っていますので、微生物の酵素の助けを必要としないのです。現代の塩辛作りでも大きな魚を使う場合に、除去した内臓やその肝臓部分を原料の魚の切り身に混ぜるということをしています。切り身だけ仕込んでも塩辛は出来にくいのでしょう。 昔の中国の文献のように、どんな動物性の肉からも「肉醤」を作ろうとする場合は、麹の微生物の添加が必要であったのだと思います。この古い方法による魚醤(塩辛)作りは現在はどこでもほとんど行われていません。秋田のショッツル製造で麹を少量添加するケースもあると聞いておりますが、分解目的ではなく風味付けをするためと言われています。面白いと思うのですが、第3話にも述べましたが、「塩麹」を肉や魚に作用させ美味しくすることが、近頃はやって来ましたが、この古代の「肉醤」作りを思い出させます。
「魚醤油」の具体的製法
具体的な製法を見てみましょう。国別、地域別に製法は異なっていますが大筋は同じですので、タイの規模の大きいナム・プラー工場の例でお話しします。水揚げされた大量の小魚に、魚の30%前後の量の食塩を混ぜ、コンクリートタンクに投入します。水は入ません。一年から一年半熟成させると小魚の身は液状化します。この液をフィルターで分け取ったものがナン・プラーの一番搾りです。高品質品です。日本に輸出されているのはこの一番搾りです。タンクに残った魚の滓から、下等級品ですが2番、3番絞りをとります。残った滓は肥料、飼料にされます。
各地の魚醤油の原料は一部淡水魚もありますが海水産の小魚がほとんどです、製造業も海岸に集中しております。一方塩辛の原料は、大、小の魚の他にエビやイカなど、それから淡水魚、海水魚が共に使用されています。
魚醤油はもともと塩辛汁の利用から
実は、魚醤油自体の誕生はそんなに古くないのです。醤油が生まれる前には人々は「醤」とか味噌の汁から分け取った液体を調味用に使ったことを前にお話ししました。魚醤油が生まれる前も、同じように、塩辛の汁を料理の都度、分け取ったり、塩辛をすりつぶして液状にして調味に使っていました。
塩辛は穀醤と違い製法が簡単なので非常に庶民的な食べ物であり、東南アジアでは古くから一般家庭で自家製造されてきました。その土地土地にあった魚介の種類と製法で作られてきました。家内工業的な生産による市販品もありました。始まったのは3千年前の醤が文献に表れる周代以前であったようです。
現在の塩辛の生産の分布は東南アジア大陸部、フィリピン北部、中国南部の海岸部、台湾、朝鮮半島と日本ですが、石毛直道は水田稲作と共に始まり、伝播したという説をとなえています。従ってアジアモンスーン地帯が発祥の地と言うわけになるのでしょうか。塩辛は古代以来連綿と人々に受け継がれたわけです。
ところが、魚醤油の生産の歴史は新しく、それも自家製造はなく事業としての生産だけのようです。石毛は中国、日本で生まれた醤油が各地に伝わり醤油という液体の調味料が優れていることを知った人々が、その代用品として、塩辛の製法を改良し液状の塩辛、つまり魚醤油の製造を始めたのだろうと言っています。従って、16、17世紀以降、それも中国南部、日本、ベトナムで始まったと推定しています。タイを含めてその他の地域は20世紀以降に華僑資本により始まったようです。したがって、塩辛の分布範囲よりは狭く、日常に盛んに使っているところは東南アジア大陸部とフィリピン北部、インドネシアの数地方のみです。朝鮮半島では塩辛は非常に盛んですが魚醤油は無いというのも面白いことです。中国、日本も細々とした状態です。
以上は東アジア、東南アジアのお話ですが、世界に目を広げると、昔から今日まで、醤油様調味料に入るものは現在はほぼ忘れ去られているギリシャ・ローマ時代の地中海沿岸のガルム、リクアメンしかなく、他にはどこにもないようです。魚醤はやはり他所には無いのですが、地中海には現在でもアンチョビーの塩辛がありますので、世界中で東アジア、東南アジアと地中海沿岸のみが、含塩のうま味食品である魚介の発酵食品の文化を、共に古代から続けて持っていることになり、興味深いことです。
話が長くなり失礼しました。
次は人々のニーズの変化に対応した日本の醤油の発展の歴史を振り返ります。
参考資料
・石毛直道、ケネス・ラドル:「魚醤とナレズシの研究」,岩波書店、(1990)
・藤井建夫:「魚の発酵食品」、成山堂書店、(2002)
・栃倉辰六郎編:「醤油の科学と技術」、日本醸造協会、(1994)
皆さんはベトナムの「ニョク・マム」やタイの「ナム・プラー」そして秋田の「ショッツル」など、醤油と同じような液体調味料をご存知ですね。これらが「魚醤油(うおしょうゆ)」です。今回はこの魚醤油のお話をします。
「魚醤(ぎょしょう)」ともいいますが、皆さんはイカの塩辛をご存知ですね?こういった、液体ではなく、固状、かゆ状やペースト状の「塩辛」という食品も「魚醤」です。「魚醤油(うおしょうゆ)」は魚醤の中でも調味料用途のみに使われる「液体状の魚醤」をいいます。塩辛については現在でもうま味の文化圏をなす東アジア、東南アジアで広く使われており、魚醤油のオリジンでもありますので共に触れたいと思います。
「魚醤油」は魚介類から作る「醤油様調味料」です。発酵食品に入ります。
「醤油」は中国、日本など東アジア一帯で食生活に根を下ろして日常使われておりますし、東南アジア一帯でも魚醤油ほどではないですが調理に使われています。前回までにお話ししましたように、醤油は穀物のタンパク質を微生物の酵素により分解して作った、「アミノ酸のうま味を主体にした含塩の液体調味料」です。多くは大豆を原料としますが、他の豆類や別の穀物を使う種類もあります。
一方、「魚醤油」は現在、東南アジア一帯、特にベトナム,タイなどの大陸部で人々の日常生活に根を下ろしており、それぞれの地域の調理や食卓で「醤油」とほぼ同じ目的に使われております。東アジアでも限られた地域ですが生き残っております。日本では秋田のショッツルや能登のイシリの製造が続いています。穀類ではなく魚介類から作られるものですが、醤油と同じく「アミノ酸のうま味を持つ含塩の液体調味料」です。「醤油様調味料」と云うことが出来ます。日本では最近はナン・プラーの輸入が増加してきており、スーパーで売られ、各種加工食品の調味料としても使われ、使用が増加してきております。また、国内各地で魚介の付加価値増加を目的として、新しく工夫した魚醤油を作り販売を始める動きがあります。
製法は魚介類を食塩で腐敗を抑えながら、液体状になるまで長期に熟成して、魚介の肉のタンパク質をほぼ完全にアミノ酸に分解して作ります。醤油は微生物の酵素により穀物を分解して出来ますが、魚醤油は原料の魚介類の内臓の酵素により自分の体を分解(自己消化)して出来ます。この両者とも発酵食品と呼んでいます。後者では微生物は関与しません。原料自体の持つ酵素、つまり動物の酵素の反応プロセスなのですがやはり「発酵プロセス」とみなします。発酵と言う概念を最大限に広げた使い方だと思います。
関連する「塩辛」は自己消化による分解程度が魚醤油より少ない段階で製品にしたもので、原理は全く同じで同様にアミノ酸のうま味を持っています。しかし、原料の魚介の身も一部液化しながらも十分に残っており、全量を食用に供します。タンパク質に富んだおかず用とか酒肴用嗜好品ですが、調味用としても使われるようです。
魚醤油の成分を見ますと、ポイントのグルタミン酸を多く含み(約1%)、醤油にほぼ匹敵する含量ですので、うま味調味料として優れていることが頷けます。また、魚醤油は東南アジアでは「塩味調味料」としても使われており、醤油(17%)よりも食塩分を多く(26%)含んでおります。また、コハク酸を醤油より多く含みコク味に寄与していると考えられます。一方、魚醤油はpHが中性(6.0)に近いので酸味料としての機能は弱酸性の醤油((4.8)に対し劣りますし、醤油には含まれる糖分、アルコールがなく、醤油よりも比較的単純な味のうま味・塩味の調味料と言えそうです。
微生物は本当に働かない? 魚醤油作りに麹を添加するところもありますが。
先ほど、魚醤油作りには微生物は関与しないと述べましたが、微生物は熟成期間中にかなり増殖しておりますので、ある種の「微生物による発酵」は起こっています。正確にいいますと、「現在の魚醤油の作り方では、『うま味を生ずるアミノ酸への分解』には微生物の寄与度は小さい」という意味です。これは抗生物質の添加実験で確かめられました。微生物の詳しい働きはまだよくわかっておりませんが、それぞれの魚醤油の香味付け、あるいは匂い生成には関与しています。私どもは魚醤油の強烈な匂いを不快に感ずることが多いのですが、製造中におこる魚油等が空気酸化されたり微生物の作用により臭気成分を生じたりして匂いが発生することが原因と言われています。従って、後で述べる工程の短い一番搾りの魚醤油は匂いはあまりしません。
上述の微生物の関与は小さいということは今日の魚醤油についてのお話ですが、歴史をたどると微生物の働きについて、もう少し考察が必要です。第3話で述べましたが、中国の文献で3千年前の昔からあったという「肉醤(ししびしお)」はうま味をもった保存食品ですが、原料の動物や魚介の肉に食塩と「穀物の麹」と酒を混ぜて甕に入れて熟成させると記されています。当然肉のタンパク質のアミノ酸への分解に「穀物の麹」つまり微生物を働かせています。なぜ、自己消化酵素を持つ動物性の肉に微生物添加が必要なのでしょうか?それは、 獣肉や魚の自己消化酵素が弱い筋肉部分を原料にしたり、洗浄、乾燥、日干しなど手を加えた後にこれら原料を用いる場合は、微生物の分解酵素の助けが必要であったと思われます。一方、新鮮な小魚、イカ、えびなど丸ごと原料にする場合はそれらの内臓には強力な自己分解力のある酵素群を持っていますので、微生物の酵素の助けを必要としないのです。現代の塩辛作りでも大きな魚を使う場合に、除去した内臓やその肝臓部分を原料の魚の切り身に混ぜるということをしています。切り身だけ仕込んでも塩辛は出来にくいのでしょう。 昔の中国の文献のように、どんな動物性の肉からも「肉醤」を作ろうとする場合は、麹の微生物の添加が必要であったのだと思います。この古い方法による魚醤(塩辛)作りは現在はどこでもほとんど行われていません。秋田のショッツル製造で麹を少量添加するケースもあると聞いておりますが、分解目的ではなく風味付けをするためと言われています。面白いと思うのですが、第3話にも述べましたが、「塩麹」を肉や魚に作用させ美味しくすることが、近頃はやって来ましたが、この古代の「肉醤」作りを思い出させます。
「魚醤油」の具体的製法
具体的な製法を見てみましょう。国別、地域別に製法は異なっていますが大筋は同じですので、タイの規模の大きいナム・プラー工場の例でお話しします。水揚げされた大量の小魚に、魚の30%前後の量の食塩を混ぜ、コンクリートタンクに投入します。水は入ません。一年から一年半熟成させると小魚の身は液状化します。この液をフィルターで分け取ったものがナン・プラーの一番搾りです。高品質品です。日本に輸出されているのはこの一番搾りです。タンクに残った魚の滓から、下等級品ですが2番、3番絞りをとります。残った滓は肥料、飼料にされます。
各地の魚醤油の原料は一部淡水魚もありますが海水産の小魚がほとんどです、製造業も海岸に集中しております。一方塩辛の原料は、大、小の魚の他にエビやイカなど、それから淡水魚、海水魚が共に使用されています。
魚醤油はもともと塩辛汁の利用から
実は、魚醤油自体の誕生はそんなに古くないのです。醤油が生まれる前には人々は「醤」とか味噌の汁から分け取った液体を調味用に使ったことを前にお話ししました。魚醤油が生まれる前も、同じように、塩辛の汁を料理の都度、分け取ったり、塩辛をすりつぶして液状にして調味に使っていました。
塩辛は穀醤と違い製法が簡単なので非常に庶民的な食べ物であり、東南アジアでは古くから一般家庭で自家製造されてきました。その土地土地にあった魚介の種類と製法で作られてきました。家内工業的な生産による市販品もありました。始まったのは3千年前の醤が文献に表れる周代以前であったようです。
現在の塩辛の生産の分布は東南アジア大陸部、フィリピン北部、中国南部の海岸部、台湾、朝鮮半島と日本ですが、石毛直道は水田稲作と共に始まり、伝播したという説をとなえています。従ってアジアモンスーン地帯が発祥の地と言うわけになるのでしょうか。塩辛は古代以来連綿と人々に受け継がれたわけです。
ところが、魚醤油の生産の歴史は新しく、それも自家製造はなく事業としての生産だけのようです。石毛は中国、日本で生まれた醤油が各地に伝わり醤油という液体の調味料が優れていることを知った人々が、その代用品として、塩辛の製法を改良し液状の塩辛、つまり魚醤油の製造を始めたのだろうと言っています。従って、16、17世紀以降、それも中国南部、日本、ベトナムで始まったと推定しています。タイを含めてその他の地域は20世紀以降に華僑資本により始まったようです。したがって、塩辛の分布範囲よりは狭く、日常に盛んに使っているところは東南アジア大陸部とフィリピン北部、インドネシアの数地方のみです。朝鮮半島では塩辛は非常に盛んですが魚醤油は無いというのも面白いことです。中国、日本も細々とした状態です。
以上は東アジア、東南アジアのお話ですが、世界に目を広げると、昔から今日まで、醤油様調味料に入るものは現在はほぼ忘れ去られているギリシャ・ローマ時代の地中海沿岸のガルム、リクアメンしかなく、他にはどこにもないようです。魚醤はやはり他所には無いのですが、地中海には現在でもアンチョビーの塩辛がありますので、世界中で東アジア、東南アジアと地中海沿岸のみが、含塩のうま味食品である魚介の発酵食品の文化を、共に古代から続けて持っていることになり、興味深いことです。
話が長くなり失礼しました。
次は人々のニーズの変化に対応した日本の醤油の発展の歴史を振り返ります。
参考資料
・石毛直道、ケネス・ラドル:「魚醤とナレズシの研究」,岩波書店、(1990)
・藤井建夫:「魚の発酵食品」、成山堂書店、(2002)
・栃倉辰六郎編:「醤油の科学と技術」、日本醸造協会、(1994)
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