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生物学はいかに創られたか(5) ~ニーダムとスパランツァーノの生命自然発生説論争 ―生命自然発生には新鮮な空気が必要?― ~

ニーダムとスパランツァーノの生命自然発生説論争―生命自然発生には新鮮な空気が必要?―        柴井博四郎

 ニーダム(1713-81)はフランスのカトリック司祭で、生命自然発生説の信奉者でした。レーベンフックの顕微鏡による極微生物の発見を評価しつつも、一方で、細菌の分裂を交尾と解釈したレーベンフックの細菌増殖方法に関しては、類推による誤りであると主張しました。細菌は親から生まれるのではなく、自然に発生すると考えたのです。

 ニーダムは、加熱殺菌した肉汁を熱い灰の中で滅菌した薬瓶に入れ、樹脂処理したコルク栓で密封しました。数日後、薬瓶には大小とり混ぜた多数の顕微鏡的生物が湧いていました。肉汁だけでなく多くの浸出液で試しましたが同じ現象が再現されたのです。生命が自然に発生する証拠であると主張しました。

 イタリア人のスパランツァーニ(1729-99)もやはりカトリックの司祭で、巧みで精密な実験を行いました。ニーダムの実験は加熱が不十分ではないか、またコルク栓による密封も完全ではなかったのではないかと反論しました。そこでニーダムの実験に改良を加え、ガラス瓶に肉汁を入れ、ガラス瓶の口を炎で密封し、その後沸騰水の中で1時間殺菌しました。数日してガラス瓶を開封したときに顕微鏡的生物の発生は19個のガラス瓶に一つもありませんでした。

 今の時点で考えれば、スパランツァーノの実験で生命自然発生論争にはけりがついたと言えそうですが、ニーダムの反論は強力なものでした。生命が自然に発生するためには新鮮な空気が必要で、スパランツァーノの実験では空気が活性を失っていると、主張しました。ガラス瓶で密封され、強く加熱されると空気の活性が失われると言うのです。

 今の私どもには、ニーダムの反論は、生命自然発生説を擁護するための詭弁で無理があるようにも思えます。しかし、私どもは空気を絶え間なく吸って生きています。もし、空気がなくなったら生きていけないことも明らかです。空気には生命に必要な何か不思議な力があると考えるのも自然です。肉汁から生命が発生するためには新鮮な空気が必要であるという主張を否定できませんでした。

 「生命発生には新鮮な空気が必要」を実験で否定することはきわめて困難でした。空気の存在下でも生命が発生しないことを証明しなければならないのです。空気には多数の微生物が浮遊していますから、肉汁を殺菌できても、空気が接触すれば微生物が湧きます。生命自然発生説否定論者は、空気から加熱ではなく別の手段で微生物を完全に除去しなければならなかったのです。この論争に決着がつくのにさらに100年が必要でした。

 スパランツァーノの実験は食品保存技術の分野で大きな貢献をすることになりました。密封して食品を加熱すれば腐敗が防げることが明らかになり缶詰食品が誕生したのです。

参考書 
ヘンリー・ハリス著 長野 恵・太田英彦訳「物質からから生命へ(自然発生論争)」、青土社

次回は6月25日、「シュレーダー、パスツールによる生命自然発生説否定」を予定しております。



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