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第2回品川区立伊藤学園「消化と酵素の働き」授業と実習(2012年11月7日8日)

  「タンパク質消化酵素の働き」

 

 当NPO法人の授業として、品川区立小中学一貫校伊藤学園8年生(中学2年)を対象に、ヒトや動物のタンパク質の消化を可視化して理解を深めることを狙った実習を2012年11月7日~8日に5クラスで実施しました。
 今回の特徴は、実験をタンパク質の消化に絞ったこと、対象を5クラスに拡大し、その内の3クラスの実習は伊藤学園の先生が講師となって実施したことです。

 以下に、当法人の正会員で酵素の専門家である横関健三講師の報告、担当教員の齊藤泰弘先生、坂内温実先生の感想を掲載します。
 ご意見、ご感想、並びに、ご質問がありましたら、本HPの「問合せ・ご意見」でお知らせ下さい。

授業の趣旨
(1) タンパク質の消化の新しい実験方法の開発
消化において重要な位置をしめるタンパク質の分解過程を短時間内に色の変化で観察できる方法論を構築することにより、タンパク質の消化現象の観察を中学の理科実験に組み込むことに成功致しました。タンパク質の分解を一コマの授業時間内に色の変化で的確に観察できる実験方法の開発はおそらく日本初と思っています。

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(2) 構築すべき実験方法の考え方、特徴
クマシーブリリアントブルーという色素は水溶液中で茶色を呈していますが、タンパク質に吸着すると鮮やかな青色に変化する性質があります。この発色反応を利用することにより、タンパク質が分解されて消失していく過程を青色の退色で観察することができます。しかしながら、15分程度の短い実験時間内にタンパク質の分解を観察するためには、比較的大量のタンパク分解酵素が必要となります。通常に入手できる酵素は精製度が低いため多量の他のタンパク質を含んでいますので、この酵素標品を大量に添加するとタンパク質も増加させてしまうことになり、色の変化の観察が困難となります。これを解決するために、天野エンザイム(株)のご協力で微生物由来の高純度精製酵素を入手しました。このことにより、短時間にタンパク質の消化分解を青色の消失で観察できる実験方法を構築することが可能となりました。
(現在は、この酵素と色素のキット化、教材化を検討中です)

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(3) 授業の実施
新たに構築した実験によるタンパク質の分解過程観察の第1回目試みは、2012年3月12日に伊藤学園の8年生(中2)の1クラスを対象とし、2コマの時間を使い、デンプンの消化とタンパク質の消化の双方の分解過程の観察を実施しました。
(この概要は当HPの授業・実習「第一回品川区立伊藤学園「消化と酵素の働き」授業と実習」、ここをクリックしてご参照下さい。


以下、今回講師を担当されました、齊藤泰弘先生の感想です。

タンパク質の消化実験授業担当の所感 (品川区立伊藤学園 齊藤 泰弘先生)

 11月7日(水)と8日(木)の2日間に渡って、8年全5クラスで消化に関する特別授業を行いました。この授業は、「消化におけるタンパク質の分解についての新しい実験方法の開発」というテーマで、全国でまだどこの中学校でも行われていない貴重な教材を使わせていただき、NPO法人「バイオ未来キッズ」の講師の先生方の支援のもとで行いました。
この消化の学習では、一般的にデンプンとだ液を使った実験を行いますが、今回はカゼイン(タンパク質)とプロテアーゼ(消化酵素)を使い、タンパク質の認識のためにクマシーブリリアントブルー(CBB)溶液という反応すると大変きれいな深い青色を示す染色液も使いました。
生徒達は、いつもよりやや緊張気味に講師の先生のお話を真剣に聞き、やや操作が煩雑で難しい実験でしたが、積極的に取り組んでいました。ただし、反応するまで15分間という待ち時間があったため、一部、授業に関係のないおしゃべりなどもありましたが、これに関しては、授業の組み立てに改善の余地があるように感じました。そして、実験結果が期待通りのきれいなグラデーションのような色の変化になると、生徒達はとても嬉しそうな表情を見せていました。そんな生徒達の様子を見て、私や講師の先生方も思わず拍手をしてあげました。
生徒達の授業後の感想の中に「0分と5分と10分と15分(消化の時間)で、全部色が違うのはびっくりしました。消化ってすごいなって思いました」「実験の結果で、きれいなグラデーションになったとき、(講師の先生が)ほめてくれてうれしかったです」などがあり、生徒達の喜びや感動の様子がうかがえます。

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また、今回の授業では、消化についてだけではなく、普段の授業では学習できない食事の意味についてもレベルの高い学習をすることができました。生徒達は、多少の難解さを感じたかもしれませんが、普段の授業では味わうことのできない感動を味わい、また、最先端の科学の一端にふれる貴重な経験をすることができました。
生徒達の感想で、「説明されたとき、難しい実験だなと思い不安だったけど、(講師の先生が)細かい所まで教えて下さったので、失敗もなく楽しい実験ができました。最初、タンパク質の消化などあまり興味がなかったけど、実験をやってもっとたくさん消化のことを知りたくなりました」というものがあり、今回の経験が生徒達の心の中で科学の芽となり、更に成長してくれることを期待したいと思います。

(3) 授業を終えて
第1回、第2回ともに授業にご尽力頂きました坂内先生のご感想です。

品川区立伊藤学園 8年生担当教師 坂内 温実先生
今回は、タンパク質の消化に焦点を絞った授業でした。また前回のように特別授業的なものではなく、単元の流れのひとつということをより意識しての取り組みでした。よって今回は、実際の授業の中で、この実験を含めた取り組みができるかどうかという観点で、授業を見させていただきました。
まず、前回同様、実験における生徒の反応が大変よく、色の変化という視覚的な要素を取り入れた実験は、生徒の学習への関心を引き起こさせるには有効であることがより確かなものとなりました。次に酵素調整がキッド化され、試料の準備に特別な技術を要しなったことは実用化に向けて大きな前進と感じました。また、実験を含めた授業全体が中学校の50分の授業にほぼ収まる内容に構成されていました。
しかし、事前の準備に時間がかかること、実験器具が多数必要であること、駒込ピペット操作にやや技術を要するなど、これから考えるべき点がいくつかあることも事実だと思いました。
 私なりの結論は、前回、今回の実験を通して、改善点はあるものの、やはり実験が成功したときの生徒の晴れやかな笑顔が、この実験の有用性を何より物語っていると思います。第2分野に化学的な実験が少ないことを考えると、このような、生徒の興味・関心を引き起こす実験をできる限り取り入れていければと考えます。

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以上